【番外編追加中】紳士な副社長は意地悪でキス魔
朝からオープンしている喫茶店があるのでそこに彼女を案内した。扉を開けるとコーヒーの香りが鼻を突く。クラシックのBGMが優雅に流れ、あちこちの席で年配者が新聞を広げているのが見えた。


「この時間に開いてるところってここしかなくて。匂いとか、大丈夫ですか?」
「はい。橘さんから聞いてませんか? 私が流産したこと」
「ええ、まあ……。とにかく座って」


空いていた席に座る。小さな2名席、頭の上まで仕切りはあるので隣のお客さんの顔も見えないし、小声なら聞かれることはない。コーヒーを注文し、出されたおしぼりで手を拭いた。彼女は緊張しているようで、膝の上に手を重ねて下を見つめていた。


「体は大丈夫ですか? 私は妊娠したことがないからわからないけど……」
「大丈夫です。初期の妊娠はよくあるらしくて、ちょっと重いくらいの生理で終わってしまいました。お医者様も問題ないっておっしゃってましたので。すみません。悪いのは私なのにご心配いただいて……。本当にごめんなさい。いろいろと迷惑をかけてしまってごめんなさい」


私はなんて返事をしていいのかわからず、黙ってしまった。怒ってるわけでもないし、だからといって迷惑ではなかったとも言えない。

返事をしない私を不思議に思ったのか、怒らせたかと思ったのか、彼女は私を心配そうに見つめた。


「あの、橘さんから何も聞いてないんですか?」
「橘は、つい部下に手を出して、ってそれだけ」
「それ、少し違います」
「えっ?」
「私、入社したときから橘さんに憧れてました。橘さんに恋人がいることは本人から聞いて知っていました」
「そう」
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