甘い初恋は、イケナイ最後の恋。
全力で抵抗していると、いきなり体を離されて両腕を掴まれる。
「ゆあ!俺だよ、俺!」
「いや、オレオレ詐欺は間に合っ…て……」
私の呼び方が変わったことに体の動きが止まる。
今、私のこと…ゆあって……
私のことを"ゆうあ"ではなく"ゆあ"と呼ぶのは昔からただ一人。
私の動きが止まると男の人は私から少し離れて、グラサンを外した。
「あ、…あ……」
忘れるはずがない。
女性が羨ましがるほどにパッチリの二重にスッと筋の通った鼻、よく見れば黒髪だった髪はフワフワの猫っ毛で。
彼を見れば見るほどに思い出していく記憶。
そして昔よりも低くなった私をゆあと呼ぶその声。
「……ひー、くん?ひーくんなの…?」
私が昔呼んでいた呼び方で呼べば、彼はホッとしたように笑って両腕を広げた。
「…っ!ひーくん!!」
私は溢れて止まらない涙をそのままにして勢いよく彼ことひーくんに抱きついた。
十何年ぶりに呼んだ兄の名前は澄んだ青空に響いて溶けた気がした。