眠り王子が人ではなかったのですが。




「酉の刻は、今で言う六時前後くらいだからまだ大丈夫ってこと」



そうなのか、なら大丈夫か。



落ち着きながら帰る準備をして、温室を出た。また何かやばいものにあったらやだな、何て思いながら家まで帰る。



その日は、帰り道で変なものに会うこともなくて、無事に家に着いた。



『ただいまぁ』



「あぁ、おかえり」



玄関で靴を脱いでいると、お母さんがユラリと姿を現した。少しうつろな目と、やせこけた頬。ちょっと前までのお母さんとだいぶ変わった姿。



原因はお父さん。



お父さんは、妖怪や幽霊を研究する仕事をしていて、一年前から行方不明なのだ。お母さんもずっと帰りを待ってる、もちろん私も。



それでも、お父さんは一年たった今も帰ってこない。



何処にいるのか、生きているのか、それすらも分からない。家族にポッカリと穴が開いたみたい。



「今日はカレーよ」



『やったカレーだ』



そう言って台所へ向かうお母さんの後を着いていく。並べられたカレーは三人分。



『お母さん、カレー多いよ』



「いいから食べなさい」



自分の席に着くお母さんに、私はないも言えずただ従った。




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