見た目通りには行かない



尊も今、声を掛けるのはまずいと気付いたようでそのまま足を進めて席に着いた


チラッと女を見れば残りのお茶を配り終えてさっさと出ていってしまった

尊の顔を一度も見ることなく



気を取り直し会議はいつものように滞りなく進んだ



会議が終われば社長である尊に相談しにくる者、お互いの問題点を相談し合う者
いつもの光景だったが、今日は少し違った



「高安部長、彼女は癒されますね~」

「そうですね」

「本当に企画課のアイドルと言うのは納得ですな~」



あの女、企画課なのか……
アイドルね

同じように聞いていただろう尊が何となく面白くなさそうな空気を醸し出して笑いそうになる



「高安……」


尊が企画課の部長を呼んだ


「はい」

「今日のお茶出しの女、企画課なのか」

「はい、すぐにお茶を片付けさせますね」

「いや、社長室に来るように言ってくれ」



その言葉に他の社員も驚いた
もちろん俺も



まさか、もう動くとは



驚いた顔を見せた高安ははぁーっとため息を吐いて
「隠してたんですけどね」と、ニヤリと笑った


尊は一瞬顔を歪めたが、ふいっと反らして立ち上がって会議室を出ていった


「お疲れ様でした」と太い声に見送られながら


きっと、尊が出ていった会議室では尊の恋の行方が話題になってるだろう
社長である尊には、もちろん敵は多いが、社員には………特にあの役職者である面々は尊を尊敬し見守っているのを感じる
良い社員が揃ってるのは尊の人徳だ






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