見た目通りには行かない




尊が女と別れた時もここにきた
だから、親父は尊の事情もよく知ってる


三人の時もあれば一人の時もある
俺だって、竜も尊だって
きっと親父は俺たちよりも俺達の事を知ってることがあるかも知れない



「ここに連れてきたら女が逃げそうだな」



素直になれない俺達はこうやって毒をはいて親父の優しさを受け止める
親父もわかってるからか「素直じゃねぇな」なんて言って笑ってる




「幸輝も竜も尊の女知ってんのか?」

「まぁな」

「親父~竜のこれ」



俺もさっきの親父と同じように小指を立てた



「ほぉ~尊と取り合いか?」

「そんなんじゃねぇよ……」

「竜の大事な女だと」



そう言うと、親父はハッとして少しだけ目を潤ませた
俺たちから顔を反らすと「竜、良かったなー」と言って他の客のところへ行ってしまった


親父はその辺の事情も知ってるらしい



「俺だけ仲間はずれかよ」

「ははっ、」



拗ねた様に言うと竜は優しく笑った



「お前、そんな風に笑うのな」

「え?」

「竜のそんなかお初めて見た
それも川口麗効果?」

「………組長にもお前らにも感謝してるよ
10年前に拾ってもらってお前らとは喧嘩したけどそんな風に自分をさらけ出せる相手は初めてだったんだ」



10年前、組長が竜を連れてきた
中学三年で同じ歳で、仲良くなるには時間はかからなかったけど当時はお互いライバルみたいな感じだった
どんな経緯で来たのかは知らないし、気にならなかった


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