ほんもの。

昼休憩が重ならないという理由からだろう。
先輩が気にせずに続ける。

「すぐに交番行ったら、あたしの定期持ってるひといてね。しかもその人、自分も定期入れを落としたって言っててさ」

「もしかして、先輩が拾った定期が?」

尋ねると、待ってましたという顔をする。

「と思って教えたんだけど、全然違った。まあそれで合ってたら運命感じたよね」

「そこまで世界は上手く出来てませんでしたね」

矢敷さんの言葉が私にも刺さる。本当、上手く出来てないものだ。

そんな上手く出来ていない世界で、私たちは偶然と運命を並べて比べる。

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