誰かがどこかで救われる

授業に集中できない。
三時間目は捨てよう。

いつもの席からズームされた中原君が隣にいる。
自分の右側が熱を持つ。
それでも目線は中原君のペンケース。

数式と先生の声とペンケースと……頭が混乱中。

授業が終わる頃

「消しゴム忘れたとか?」

あまりにも集中してたのか
中原君は心配そうに小声で私に話しかけてきた。

「ううん。ちがうの……あ、そのシャーペンが使いやすそうでいいなぁって思って」

急に口から出た言葉は、自分で自分を褒めてあげたいくらいのアンサー。

「めちゃくちゃ安いけど」

中原君は私が褒めた黒のシャーペンを不思議そうに見る。

これは
この流れは
いい流れかもしれない。

目の前に光が広がる。

「ううん。使いやすそうで絶対いい。そんなの探してたから、つい見てた」

「変な心愛ちゃん。文房具フェチ?」

「うん。そーゆーの絶対欲しい」

絶対欲しいよ
今後の中学校生活がかかってるもん。

あまりの私の熱意が伝わったのか

「そんなに気に入ったのなら、心愛ちゃんにあげるよ」

中原君はそう言って
黒のシャーペンを私の机の上に置いてくれた。

ミッション大成功!
大きな声で叫びたい!

中原君ってなんていい人なんだろう。
嬉しくてお礼を言う前に涙ぐみそうだ

と、その時

「そっちよりこっちの方が使いやすいよ」

背中越しで話を聞いていたのだろうか
平子君が後ろを振り返り
私の机に置かれたシャーペンを、工事現場のクレーン車のように運んで、その代わりに自分の茶色のシャーペンを置いていく。

一瞬の出来事に言葉も出ない私。
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