銀髪の王太子は訳あり令嬢に愛を乞う ー 今宵、お前を必ず奪い返す
だが、男は急に「うっ」と呻き、左腕を押さえてしゃがみ込んだ。

「どうしたの?」

自分も屈んで男に声をかける。

「兵が放った矢が……腕をかすった……んだ」

そう説明しながら男は顔を歪める。

彼の腕に目を向け、躊躇いながらも手を伸ばして触れると、ベットリと濡れた感触がした。

水とは違う。

月の光に照らしてみれば、手が赤く染まっていた。

これは……血。

「大変。手当てしなければ……」

相手が何者であるかなんて考えなかった。

目の前で怪我している人を放ってはおけない。

外はまだ少し騒がしい。

家の者を呼べば、この男に驚いて大騒ぎするだろう。

そうすれば、この人は外にいる兵に捕まってしまうかもしれない。

何故だろう?

外にいる兵にこの人を渡してはいけないと私の本能が告げる。
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