私たちは大人になった

「そういう留美こそ、どうなんだよ。そろそろ結婚?」
「残念ながら、相手がいません」
「あれ?恋人がいたんじゃ…」
「いや、それ…」

いつの話よ?と言うところ、背後から飛んできた言葉に遮られる。

「別れちゃったのよ、一年前に」
「おお、磯村!おめでとう」

安川君が背後に向けて手を挙げ歓迎する。振り返ると、ドレスを纏ったかなえが微笑んでいた。各テーブルを順に回っているらしい。
よっこいしょとあまり可愛げのない掛け声と共にドレスの裾を持ち上げて、私の隣の席へと座る。花嫁は、歩くにも座るにも一苦労なようだ。

「かなえ、今日はそんな話はいいから…」
「よくないよ、留美。結婚式は出会いの場って言うじゃない」
「おっ、そうだな。気になるヤツとかいたら声かけて来いよ」

安川君が悪ノリして煽ってくる。
私が口を挟む前に、また背後から声がする。

「そういう浩市(こういち)こそ、積極的に声掛けて来たら?」

そのひと言に安川君の顔が一瞬にして曇った。声の主は今日のもう一人の主役である宇野君だった。

「……おれは、いいよ」
「いつまで引きずってるつもりだ?」
「引きずってなんかない」
「だったら、次に進めよ」
「ぷっ……ああ、いや、ごめん、ちょっと思い出し笑い」

宇野君の発言があまりにも自分のことを棚に上げていたので、思わず笑いが漏れた。宇野君からは、別れた直後からずっとかなえとヨリを戻したいという相談を受けていた。間を取り持つつもりなど最初はなかったのだが、三年間一貫してかなえを諦めなかった宇野君に根負けする形で協力した……なんてのは、かなえには秘密な訳で。
取って付けたような言い訳で誤魔化したものの、不自然極まりない。笑顔のままの宇野君も、どことなく笑ってないように見える。これは、まずい。
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