私たちは大人になった
その3 ずるくなる

元彼と友人が結婚する。しかも、来年にはどうやら子どもが生まれるらしい。

俗に言う、出来ちゃった結婚だ。
最近では、授かり婚なんて言い方をするらしいけれど。
あの二人の場合は“できちゃった”の方かな、と私は密かに推測する。

決して、悪い意味ではない。きっかけは何であれ幸せになれればよいのだから。



「碧!久しぶり」
「かなえも。しばらく会わないうちに、お腹大きくなってきたわね」
「うん、もうすぐ7ヶ月だからね。碧、今日は陽菜乃(ひなの)ちゃは?」
「パパとお留守番よ」
「すごいね。相変わらず旦那さん、イクメンだね」
「宇野君も生まれたら絶対そうなるわよ」
「芳樹は…なるわ、絶対なるわ」

大学時代からの友達である留美が結婚したため、今日は大学のサークルメンバーでお祝い会をしようと集まった。
出産後に式を挙げる予定のため、ひとまず内々にお祝いをすることになったらしい。

今、話をしていたかなえ(同じくもうすぐママになる)も、旦那様の宇野君もサークル内カップルで。
今回も留美の相手は同じサークルに入っていた安川浩市だ。ただし、二人が付き合いだしたのは学生時代ではなく、ごくごく最近のことで。

学生時代から浩市と七年も付き合っていたのは、私だった。そして、彼の浮気により別々の道を歩むことになって数年が経つ。

元彼と友達の結婚なんて、さぞや複雑な心境だろうと、あまり親しくないメンバーは邪推しているだろうけど、私は至って平和に二人を祝福している。
幸いにも、浩市の浮気相手は留美ではなかったし、別れてしばらくの間はお互いに気まずい期間もあったものの、そのうちに自然と普通に連絡したり話せる仲へと戻っていった。早い話が時間が全てを解決してくれたのだ。
主役の二人だって、そうでなければ私に「ぜひ来てね」だなんて、わざわざ連絡して来ないだろう。


「留美、おめでとう!もう籍は入れたんだっけ?」
「ありがとう。妊娠が分かってから直ぐにね」
「浩市にしては、上出来」
「碧まで。なんで上から目線だよ?」

案の定、こんな風に新郎新婦と談笑することができた。幸せそうな二人を前に、心が弾んでくる。するりと、かなえが会話に混じってきた。

「留美に考えるスキを与えなかったのはグッジョブだわ」
「そうね、留美は一人で抱え込んじゃうところあるから」
「えっ、そんなことないって!二人ともやめてよー」
「あー、留美も鈴木じゃなくなるのか。なんか寂しいな」
「自分だって、とっくに鈴木じゃないくせに」
「まあ、そうだけど」

名字が同じだったため、サークル内では皆に名前で呼ばれていた私と留美。ふざけて姉妹みたいに扱われることもあった。
元彼が結婚するという事実よりも、留美の名字が変わることの方が感慨深い。

そう思えるのは、全て今の夫と結婚したからかもしれない。
< 19 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop