嘘つきな君


「今日は厄日だ……」


起き上がる事もできずに、少し擦りむいた手を見ながら、恨みがましく言葉を落とす。

グッと歯を食いしばって、嘔吐感を飲み込んだ後、ゆっくりと立ち上がろうとした。

その時――…。


コツ。


大理石の床に反響する革靴の音。

磨き上げられたソレに反射する、黒い影。

足音が止まったと同時に視界の先に見えたのは、磨き上げられた革靴だった。


導かれるように、ゆっくりと顔を上げる。

すると、目の前には、真っ黒なコートを羽織ったスーツ姿の男の人が座り込む私を見下ろしていた。

淡い照明の中に浮かび上がるその姿を見て、胸が一度大きく跳ねた。


モデルの様に長い手足と、しっかりとした肩幅。

ハーフか? と思う様な高い鼻に少しルーズな黒髪

そして、どこか気怠そうにも見える黒目がちな瞳。

その姿が妙に色っぽくて、私を見下ろす視線に思わず息を詰めた。



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