嘘つきな君

地面に張り付いたまま、動かない足。

心の中にいるもう1人の私が、足を止める。

辛い恋に足を向ける事を止めさせようとする。


そんな中、じっと見つめ合う私達。

互いの心を読む様に、ただただ口を閉ざして見つめ合う。

すると。


「俺の口から本当の事を話す。アイツの口からじゃなくて」

「――」

「誤魔化すのは、止めたんだ」


真っ直ぐに注がれる視線と、その言葉にドクンと大きく鳴った心臓。

彼に恋焦がれるもう1人の私が、手を伸ばそうとしている。


ゆらゆらと揺れる心。

傷つく事が怖いなら、戻らなきゃ。

きっと、この先には涙しかない。

後悔する事ばかりかもしれない。


だけど今、目の前で私を待つのは、涙が出る程好きな人。

全てを話してくれると言って、私に向かって手を伸ばしている。


「来いよ」


告げられた言葉に胸が詰まる。

私を見つめるその視線に、涙が出そうになる。


あぁ。

あなたはやっぱり、酷い人。

そんな事言われたら、私が断れないのを知っているくせに。


――好き。

壊れてしまう程、好き。


胸の中で鳴った想いに応える様に、まるで魔法が解けたかの様に、ゆっくりと足が前に出た。

コツンと小さな音を立てながら、エレベーターを降りる。


未来のない道へ。

棘の道へ。

私は、歩き出した――。



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