嘘つきな君
「――終わったか?」
そんな時、突然声をかけられて、驚いてその場で飛び上がった。
勢いよく後ろを振り向くと、私を見下ろす瞳があって更に驚く。
「じょ、常務っ!」
「終わりそうか?」
「あ……はい。もうすぐ終わります」
急いでデスクに体を戻した瞬間、周りが酷く静かな事に気づく。
不思議に思って辺りを見渡すと、見事に私達だけが広い事務所にポツンと残っていた。
「あれ……? みんなは――」
「みんな、もうとっくに帰宅してるぞ」
訝しげに眉間に皺を寄せた彼が、隣の先輩の席から椅子を転がしてきて、無造作に腰を下ろした。
背もたれを前にして、私のデスクにそのまま近づいてくる。
そして、私の作業中の資料を覗き込んで口を開いた。
「へぇ、よくできてんじゃん」
黒いセルフレームの眼鏡の奥で、ツラツラと書類の上を黒目がちの瞳が動く。
そして、あっという間に目を通した彼が感心した様にそう呟いた。
褒められた事が嬉しくて、頬が上がる。
そんな単純な私を知られまいと、動じない様子で視線を外す。
「常務は、会議終わったんですか?」
確か午後からはずっと重役達の会議だったはずだ。