嘘つきな君


そんな、おとぎ話みたいな事あるわけないのに。

現実はそんなに甘くないのに。


未来は変えられるかもしれない――。

なんて、心のどこかで考えていた自分が馬鹿みたいだった。


俯きながら唇を噛み締めた私を見て、仁美が悲しそうに瞳を歪めた。

それでも、続きを催促するように前を見つめると、再びポツリポツリと口を開いた。


「ずいぶん昔の話だし、それに、あくまで噂の範囲だけど……」

「うん」

「もし神谷グループもその気なら……話はトントンに進むと思う」

「――」

「その気になれば――…直ぐにでも」

「そっか」


夢は見ないって決めたのに。

希望は持たないって決めたのに。

現実は甘くないって、知ってるのに。


こんな時でも、子供の私は。

『奇跡』というものを信じていた。

そんな子供じみた自分の考えに、心底呆れる。


だけど、未来は変えられないのなら。

せめてーー。


「……その人は」

「え?」

「その、園部のご令嬢は」

「……うん」

「いい人なの?」


そう言った私の言葉を聞いて、目を見開いた仁美。

そして、ニッコリ笑った私を見て、一気に瞳を潤ませた。
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