嘘つきな君
頬を緩ませながら、ふかふかのシートに身を埋める。

もちろん、席はファーストクラス。

エコノミーしか乗った事のない私は大興奮。

まるで小さな部屋みたいになっていて、足も広々延ばせる。


ご機嫌になりながら、窓の外に目を向ける。

だけど、不意にある事を思いついて再び常務の方に向き直った。


「あの、常務?」

「何」

「実はね、マーライオンの前に行ってみたい場所があるの」

「一応聞いてやる」


経済本を読んでいた常務が、横目で私を見て口端を上げる。

その姿に、期待を込めた視線を送りながら口を開いた。


「常務のマンション。行ってみたいな」

「俺の?」

「そう。噂では超高級マンションの最上階って聞いたけど」

「どこでそんな噂が流れてくるんだ」

「社内の常務ファンの子達が騒いでたの」


以前、常務のファンの子達が騒いでいたのを小耳に挟んだ。

常務の住んでいるマンションは、超ラグジュアリーで、超セレブリティーだって。


まぁ、予想はしていたけどね。

天下の神谷ホールディングスの次期社長なんだ。

日本一の場所に住んでいて当然だ。


ニヤリと笑った私を見て、仕方ないなと言った顔で溜息を吐いた常務。

それでも、微かに口元に笑みを浮べて。


「汚すなよ」


そう言って、再び視線を手元の本に戻した。


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