嘘つきな君













「それなら、芹沢さんは大輔さんに指名されて秘書になられたの?」


紅茶に口をつけていた彼女が、私の言葉を聞いて声を上げる。

その言葉に、小さく頷く。


「指名っていうか……きっと、彼の突拍子もない、ただの思いつきですよ」

「いいえ。大輔さんは仕事には妥協しない人ですもの。きっと芹沢さんが秘書として才能があると見込まれたのね」


大きな瞳を柔らかく細めて、ニッコリと笑った彼女。

その言葉と笑みに、思わず頬が緩む。


応接室の一室を借りて、私と桃香さん、柳瀬さんの3人という、不思議なトライアングルで会話は進む。

初めは決まづくて言葉一つ落とせなかったけど、今では少し雰囲気も和やかになってきた。

そんな中、気づいた事。

それは、桃香さんはとってもいい人だって事――。


「芹沢さんが、羨ましいです」


少しの沈黙の間に紅茶に口をつけた私に、そんな声が落ちてくる。

視線を上げると、少し悲しそうに微笑む彼女がいた。


「羨ましい……ですか?」

「えぇ、とても。だって、大輔さんに認められて、尚且つ毎日彼の傍にいれるんですもの」


少しだけ拗ねた様に唇を尖らせた彼女を見て、口に運んだティーカップが動きを止める。

ゆらゆらと揺れているのは、きっと私の瞳。

彼女の心に、真っ赤な想いを見たから。

私と同じ様に、真っ赤な――。
< 286 / 379 >

この作品をシェア

pagetop