嘘つきな君
じっと見つめられるその視線に、負けそうになる。

だけど、グッと拳を握って口を開いた。


負ける、ものか――。


「誰も、彼の心を縛る事は出来ないわ」

「――」

「それに、彼は私を選んでくれている。心は私の側にある。政略結婚で得られるのは、空っぽの彼だけよ」


心は全部、私にくれると彼は言った。

それが、彼の本当の気持ち。

彼も本当は、政略結婚なんて望んではいない。

彼女を、愛してはいない。


「彼は、誰のモノでもない」

「――」

「あなた達のモノでもない!」


彼は、会社の道具じゃない。

ちゃんと意思のある、一人の人間だ。

政略結婚だろうが、彼の心まで支配する事は出来ない。

そして、彼は彼の意思で私の側にいてくれる。

それを咎める権利は誰にも無い。


「自分勝手な女性だ」


唇を噛みしめて睨みをきかせる私に、どこか冷めた声を発した柳瀬さん。

嘲笑うかの様な笑みを口元に浮かべて、深い溜息を吐いた。

そして、私を追い詰めるかのように鋭い視線を私に向けて口を開いた。


「立場をお忘れの様だから、教えて差し上げよう」

「――」

「何も持っていない様な、あなたと。数えきれない程の人間の未来を背負った神谷常務とでは、生きる場所が違う。悲恋に酔っているあなたと違って、彼には守るべき人間がいる」

「――っ」

「彼はきっと目を覚ますだろう。盲目の、あなたと違って」


まるで軽蔑する様な視線。

凍ってしまいそうな程、冷たい声。

それらに囚われて、何も言えなくなる。


「いずれ、分かる」


そして、最後に吐き捨てる様にそう言って姿を消した。


残されたのは。

荒い息が残る、私だけだった。

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