嘘つきな君


もっと、泣けばよかったのかな。

そうしたら、あなたはまだ私の手を握ってくれていた?


もっと、笑えばよかったのかな。

そうしたら、あなたはまだ私に微笑んでくれていた?


もっと、好きだと伝えて。

もっと、強く手を握っていればよかったのかな。

そしたら、あなたはまだ私を好きでいてくれた?


ようやく同じ気持ちになれたのに。

互いを愛し合えたのに。

嫌われたくないから臆病になって、大切な言葉を、伝えなきゃいけない言葉を伝えなかった。

聞き分けの良い女を演じて、いつか訪れる未来も受け入れているように振舞った。


本当は、誰よりも愛していたのに。

本当は、ずっと一緒にいたかったのに。

だけど、その言葉一つ伝えられなかった。

気づいた時には、全部終わってしまっていた。


「会いたいよ……常務っ」


まだ少ししか離れていないのに。

さっき会ったばかりなのに。

もう、あなたに会いたい。

声が聞きたい、抱きしめたい、、会いたくて堪らない。


後悔ばかりが、思考回路を埋め尽くす

あぁしていれば、こうしていれば、未来はもしかしたら変わったのかな。

そんな事を思ってしまう。

何もかも、もう遅いのに。


時間が戻ってほしい。

お願いだから、少しでいいから戻ってほしい。


好きだって一言。

離れたくないって、一言。

今なら言えるから―――。

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