嘘つきな君
「悪い」
小さく呟いた先輩の言葉に、ふっと笑う。
きっと何もかも知って、この店を選んだんだ。
意地っ張りな私が素直になれるように。
「こんな景色、ズルイですよ……。思い出しちゃうじゃないですか」
「お前、素直じゃないからな」
「――」
「でもさ。今の菜緒の気持ちが、本当の気持ちだろ?」
叫びたいほど、切ないのは。
息も出来ないほど、苦しいのは。
泣けるほど、懐かしいのは。
あなたへの、気持ち。
変わらない、想い。
だけど――。
「でも先輩。今回ばっかりは、どうにもならないですよ」
煌めく夜景を目に映したまま、ぼんやりと口にする。
どれだけ悩んでも、抗っても、答えのでない迷路の中からは出られない。
だから、私はもう、歩いて出口を探す事すら止めてしまった。
忘れる。という事で、全て投げ出した。
「常務は一度選んだ道は、もう引き返さない。先輩も、よく知っているでしょう?」
「――」
「例え、今の決断が本心じゃなかったとしても、結果は変わりません。そうでしょう?」
彼はそういう人。
未来は変わらない。
私達が、どう抗おうと。
「だけど、菜緒。お前今のままいたら、いつか壊れるぞ」
「――」
「いつか、本当に笑えなくなるぞ」
苦しそうに歪む先輩の瞳。
優しい人だから、少なからず負い目に感じているんだと思う。
私達を引き合わせてくれた人だから。
優しい人だから。