嘘つきな君
私の話を聞いても尚、口を開こうとしない仁美。

その強い眼差しに耐えられなくて、思わず下を向いてしまう。


「戻ってくる事は、きっとないと思う」


ポツリと呟いた声が落ちる。

これだけ大きなプロジェクトだ。

きっと、戻ってくる事はないだろう。


ゆっくりと視線を戻して、じっと私を見つめる仁美にニッコリと笑う。

ずっと私の側で、ダメな私を支えてくれた親友。

仁美とも、こうやっていつでも簡単に会えなくなると思うと、どこか寂しく感じた。


「あんたは……それでいいの」


微かな沈黙を破ったのは、そんな声。

言葉の意味が分からず、思わず首を傾げた。


「確かに栄転かもしれない。だけど、こんな時期に? こんな突然? おかしいと思わない?」

「――」

「私は、菜緒と神谷常務を引き離す為のように聞こえる」

「そんな事……」

「何らかのキッカケで2人の事を知った神谷社長の根回しよ。ましてや婚約相手は、あの園部グループの令嬢。園部の会長は、煩わしいモノは全て排除する事で有名な人なのよ。どっちの策略かは分からないけど、きっと菜緒の事を煩わしく思ったどちらかが企てたのよ」

「――」

「それにっ、そんな気持ちであっちに行っても菜緒が苦しむだけよ。分かってるの? もう会えないんだよ?」

「分かってる」

「分かってるって……。あんたそれでもいいの? 好きなんでしょう? まだ大好きなんでしょう?」


淡々と言葉を落とす私に詰め寄る仁美。

それでも、薄く口元に笑みを浮べてその姿を見つめた。


「それでも、行く。」

「――っ」

「もう嫌なの。泣いてばかりの恋は」


流れる涙も、もう枯れてしまった。

泣き叫ぶ声も、もう枯れてしまった。

心の中に咲いていた真っ赤な花も、もう枯れてしまった。



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