嘘つきな君

最後に


「お世話になりました」


シャルルや秘書課の、同期・先輩・上司達に笑顔で深々とお辞儀をする。

その瞬間、両手に収まりきらない程の大きな花束が手渡された。

甘いその花の香りに顔を埋める。


「羨ましいなぁ~。アメリカ」

「先越されちゃったな。もうエリートコースじゃない」


口々に飛び交う言葉に、ニッコリと微笑む。

この人達とも、次いつ会えるか分からないと思うとウルっと涙が込み上げてきた。


ここに来るまで、いろんな事があった。

突然会社が倒産して、無職になって。

それでも、何の縁か神谷グループの傘下に入る事になって。

広報から、突然秘書課に移動になって。

彼と再会して。

そして、恋をした。


あっという間だったけど、その中身はぎっしり詰まっていて、思い出は数えきれない程だ。

楽しかった事も、辛かった事も、全部私の宝物。


「いつ出発するの?」

「明後日です。荷物も、もう送っちゃいました」


気が付けば出発の2日前。

バタバタしていたら、あっという間に日々が過ぎた。

日本とも、しばらくお別れだ。


「神谷常務にも声かけたんだけどね、会議で忙しいみたいで」

「――そうですか」


無意識のうちに彼の姿を探していた時、先輩から声がかかる。

それでも、ふっと一度笑って、そう呟いた。


これで、良かったんだ。

もう一度会ったら、きっとさよならが辛くなる。

訳も分からないうちに、この場を去った方がいい。

現実を取り戻したら、もう全て終わっているみたいに。


「みなさん、本当にお世話になりました」


悲しい気持ちも、辛い気持ちも、全部胸に隠して。

さようなら。

さよならだ――。

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