嘘つきな君
乱れた心を深呼吸で落ち着かせる。
心臓が痛いほど鳴り響いて、足が僅かに震えた。
それでも、負けられないと思い、足を前に出す。
そうだ、もう思い出さないと決めた。
後戻りはしないって。
このゲートさえ越えれば、もう迷う事はない。
あっちに着いたら、この携帯を解約しよう。
何もかも、白紙から始めるんだ。
一刻も早く、この地から去らなきゃ。
沢山の思い出が詰まった、この地から。
何も知らない、誰も知らない、アメリカへ――。
真っ暗になった携帯をポケットに捻じ込んで、早足に進む。
ただ真っ直ぐに前を見据えて、航空券とパスポートを握りしめる。
だけど、そんな時に不意に香る、あの香り。
胸を締め付ける、ジャスミンの香り。
その香りが鼻をかすめた、その時。
「間に合った」
聞こえたのは、独特のハスキーボイス。