嘘つきな君





「おはようございます……」


どこか閑散としたビルに入り、恐る恐る扉を開ける。

それと同時に、段ボールが散乱する事務所が目に入って、思わず足を止めた。

すると。


「菜緒! こっちこっち!」


事務所の中で、手招きをする美鈴の姿が目に映った。

近くには先輩や後輩の姿もあり、皆不安そうに何やら話し込んでいる。


呼ばれるまま、パタパタと美鈴の元に駆け寄る。

そのすぐ側には見慣れた自分のデスクがあった。

それでも、あったはずの書類達がすっかり空になっているのを見て、思わず大きな溜息が出る。


「何もかも持っていかれちゃったんだね……」


数週間前までは書類でいっぱいだった引き出しも、今ではシャープペンなどが転がっているだけだ。

どこかもの悲しくなって、デスクの上を指でそっと撫でた。


「私のデスクも菜緒と一緒で、もぬけの殻。事務所の中の物も全部持って行かれちゃったから、なんだか違う場所みたいだよね」

「そうだね……」


閑散とした事務所を見渡して、小さく息を吐く。

今までどこか現実味が無かったけど、こうやって目の当たりにすると現実を思い知らされる。

私の居場所は、もう無いんだって。

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