嘘つきな君
「もしもし美鈴~?」

『あ、菜緒。おはよ。ごめん寝てた?』

「ううん。悲しい事に、いつも通りの時間に起きちゃった」


自嘲気に笑いながらそう言った私に、美鈴は『私も』と言ってクスクスと笑った。

きっと、美鈴も私と同じように職探しに奮闘してるんだろうな。

今日時間が合えば久しぶりにランチに誘ってみよう。

そんな事を考えていると。


『あのね、さっき部長から連絡網が回ってきたんだ』


唐突に落ちた美鈴の言葉に、目が点になる。

数週間前は、どれだけ電話しても誰にも繋がらなかったのに?


「今更? え、なんて?」

『今日、会社に来いってさ』


どこか納得のいかない声でそう言った美鈴。

その言葉に、思わず眉根を寄せる。


「会社に来いって……。でも事務所は証拠書類集めるとかで警察が入ってるんでしょ? 行っても何するの?」

『私もそう言ったんだけど、とにかく来いってさ』


来いって……。

今更、一体何様のつもりなんだ。

ようやく、前に進もうと気持ちを切り替えて、次の職探しを始めた所なのに。


それでも、何かしらの事務手続きやらがあるのかもしれない。

失業手当だとか、退職金だとかが貰えるのかもしれない。

だったら、行くしかないだろう。


「分かった……」


何かは分からないが、とりあえず行ってみよう。

どうせ、時間は沢山あるんだ。
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