嘘つきな君
思わず呟いた私の言葉を聞いて、雑誌に視線を向けた仁美。
切れ長の瞳を細めて、小さく書かれた文字に目を落とした。
「あぁ、噂の新常務ね。まさか、あの人だったなんてね」
「仁美も知らなかったんだ?」
「ん~、新しい常務が入った事は知ってたけど、顔までは知らなかったな。なんだか隠してるみたいだったし」
「隠してる?」
「ん~、そう感じただけ。というか、今度会ったら根掘り葉掘り聞いてやらなきゃ」
仁美はそう言って、しかめっ面で常務の名前の上をバシッと叩いた。
さすがマスコミ。
いろいろ話が早いんだ。
「神谷さんとは、会社で会う事はあるの?」
「う~ん。最近はよく一緒に仕事してるかな」
「一緒に仕事!? 常務と!?」
案の定、驚いた様に仁美が目を見開いた。
その姿に苦笑いを浮かべながら、仁美が半分ほど食べてしまった出し巻卵を口に運ぶ。