朝、目が覚めたらそばにいて


その夜は約束通り三人とも残業はせずに居酒屋に集まった。
私達にはほとんど残業が無いので、登坂くんが残業をせずに集まったという方が合ってるかもしれない。


金曜日だからか賑やかな居酒屋は個人経営で料理がとても美味しい店だ。
二人ほど飲めない私でも居心地が良い。

向かいに座って一杯めの生ビールを半分ほど飲み干した登坂くんがジョッキをドンと置くと私の顔をじっと見つめた。


「で?山下さんよ、例の背中に一目惚れって何?」


登坂くんは社内に営業用の顔を置いて来たようで、荒っぽい口調で私に問いただす。
私が呆れた行動を起こすと出てくる荒くれ者風のキャラだ。
私達三人でいる時はこんな風に地を出す彼は、社内では一応モテ男だ。

「いきなりね」


いつものように沙也加が助けてくれる。


「こいつは放って置くと何しでかすかわからないからな」


ジョッキに残っているビールをグッと飲み干す登坂くんは私にはこんな態度だけれど、沙也加には違う。登坂くんは沙也加の事が好きだ。と思う。沙也加にはいつでも柔らかな態度を崩さない。


いつだったか、飲んでいる時に沙也加が化粧室へと席を外した後ろ姿を熱い眼差しで見送っていた事がある。その時に私はピンと来た。登坂くんは沙也加に惚れている。


その時、お酒が入っているせいか「登坂くん、沙也加のこと好きでしょ」とストレートに聞いたら、一瞬固まって私をじっと見つめながら大きなため息を吐いた。

そのあと、今みたいにビールをグッと飲み干し、何か言いたそうだったけど、沙也加が戻って来たからその話題は封印された。私の勘の良さに驚いたに違い無い。


沙也加だって付き合ってる男性は今の所いないし、登坂くんが告白すれば上手く行くはずだといつも思っている。もうじれったくてお節介を焼きたくなるのを今は我慢。

こういう事は本人達で進まないと上手くいかない。
第三者が入るとこじれるだけだ。
と、千秋先生の小説にちゃんと書いてあったもん。



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