ロマンスがありあまる
彼の名前を呼んだ私に、専務はフッと口元をゆるめた。

それに対して心臓がドキッ…と鳴ってしまった私は、やっぱり彼のことが好きなんだと改めて自覚させられた。

これが惚れた弱みと言うヤツか…。

「お疲れ様、楓子」

そう思っていたら専務が私の名前を呼んで、私の頬に唇を落とした。

「――ッ…」

婚約をしたとは言え、専務のペースに振り回されているのは相変わらずである。

専務が車のドアを開けて乗るようにと促してきたので、私は助手席に腰を下ろした。

運転席に専務が座ったことを確認すると、チラリと横目で彼の顔を見た。

「もうすぐだね」

私と目があったとたん、専務が言った。

「もうすぐですね」

私は返事をした。
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