空を拾う



 結局、悟は一晩ソラの枕になった。


 仕事に出かけるため、悟はソラを起こさないように静かに立ち上がった。ソラは毛布がわりのウールの膝掛けを頭まで被り、まだ寝入っている。


 悟は、身支度を整えると、少しのパンと果物をダイニングのテーブルに置き、その横にこの部屋の合鍵を置いた。


 素性の知れない娘だ。

 決して彼女を信用している訳ではないが、ソラになら何か盗られたとしても許せるような気がして、悟はいつも通りに家を出た。


 一晩ソファーに座ったままでいたので、疲れは抜けていない。しかし、寄り添うソラの体温は心地よく、身体からは日向の匂いがした。


 悟は久しぶりに夢を見た。

 まだ幼い頃、友人たちと気の済むまで駆け回った野原の夢を。

 夢の中で悟は、踏みしめた足元から立ち上る草花特有の芳ばしい香りを確かに嗅いだ。


 夢から覚めた時、悟は自分の膝に眠るソラのことが、何故か貴いもののように思えた。





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