カリスマ副社長はフィアンセを溺愛する
目が合う。


「心菜、帰るぞ。鞄は?」


不機嫌な声が場を支配する。

動かなくなる同期を見渡した私はその場に立ち上がった。


「…………。」

「ちょっと心菜。」


私の腕を掴む結衣を見下ろせば、見たことのない心配顔を向けている。


「帰るの?」

「うん、誘っておいてゴメンネ。」

「でも平気?」

「元気はもらったから…………ありがとう。」


結衣の手が離れていったのを確認した私は鞄を手に持ち、部屋の入り口付近に立つ慈英に近づいていった。


「雨宮、まだ間に合うぞ。」


掴まれた腕に足を止めれば、匠海と目が合う。

途端に背後から思いっきり引き寄せられて、匠海の手が離れた。


「俺のフィアンセだ。この先もフィアンセは俺だけだ。」

「…………。」

「泊まるならウチにしろ。俺が寝れない。」

「…………。」

「お邪魔しました。これからも心菜と仲良くしてやって。」


シーンとした部屋に手を振り、手を繋がれて部屋を出た。

呆気に取られる同期の気持ちも理解できる。

会社で見る慈英とは別人に見えただろうから。

不機嫌さを露わにする慈英なんて、会社では絶対に見たことない。

余程、不機嫌な様子なのが伝わる。
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