優しさ という名の色彩


体に力が入らない。
膝が勝手に落ちる。


“幸ちゃん…幸ちゃん…幸ちゃん…”


もう辞めてくれ、辞めて。
やめ…

「幸生さん!!!!!
ど、うした…ん…ですか…」

僕は……あれ、にこさん…?

だんだん、戻ってきた。
だがまだ震えが止まらない。

「あ。すいません、大丈夫です。」
「大丈夫じゃなさそうですよ」

不安そうに僕を見つめている。
黙ったまま立ち尽くす。
彼女の目を見れない僕を見て、少し笑った。

そして何も言えない僕に手を差し伸べた。


“ 大丈夫、そばにいます。怖くない ”


その言葉の意味はよく分からなかった。
ただ、差し伸べられた手を掴むほど、僕はきっと弱くないはず。

何も言わない。

差し伸べられた手すら掴まない僕に、彼女は優しく手を握った。



「行きましょう?ここ真っ直ぐですか?」
「しばらくは」

僕は彼女の大きな買い物袋を一つ片手に持った。彼女の片方にも。

家に向かって歩く。手は繋がれたままだった。
いつのまにか震えは止まっていて、僕は、正気を取り戻した。

「ここです」
「白くて可愛い」
「そこの階段登ってすぐです」

彼女の前を歩いた。

「どうぞ」
「お邪魔します」

特に変わったものが何も無い。
生活感のない部屋を見て驚いた顔をした。

「すごい」
「すいません、本当に何もなくて」
「え、いやそういう意味じゃなくて、白と黒で統一されてて、家具も少なくて、生活感を感じさせない感じ、、素敵」
「そうですか」

変わった人だ。僕の部屋を見てこんなこと言う人きっとそうそういない。

その時部屋に着信音が鳴り響く。
僕の携帯。

(((バイト先)))

「…はい。」
「あーもしもし、それで?どうなったの?」
「あ、はい。シフト通りに出られるようになりました」
「ほんとに!?嬉しい!じゃあよろしくね」
「失礼します」


「元気になって良かったね。」

彼女は猫を撫でて、耳に髪の毛をかける。

「聞かないんですか?さっきの。」
「はい、きっと 辛いことです、 」

切なそうに笑う、初めて見る表情

はじめて…
初めて見るものは、恐い。
僕は目を逸らした。

「あ!!こ、幸生さん!!ばいと!!始まっちゃいません!?」
「え、あ、ほんとだ、」

彼女が指さす時計を見た。
あと、15分。

「じゃあ、行きますね、」
「待って、あの、唐揚げ、好きですか?」
「好きです」
「よかった、じゃあお家で待ってますね。」
そういうと僕を送り出してくれた。



僕は、笑顔が嫌いだ。
よく笑う彼女を僕は嫌いになるはずだった。
でも何故か、初めて見た時から彼女の笑顔は
どうも嫌いになれない。

不安感、恐怖感さえ与えない。
家を出て少しだけ空を見上げた。

「また雪だ、」

今日、僕は初めて、人の温かさを感じられたような、そんな気がした。
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