続*もう一度君にキスしたかった

「こないだって、昨日までの出張中に?」

「そう、一日目だったかな。社内に居ても滅多に会うことはないんだけどばったり出くわして飯に連行された。サバサバしてて良い人なんだけどね」


昔から強引なところがあってね、と苦笑いをする。
すらすらと澱みなく話してくれたことに、スマホをこっそり盗み見るようなことをしなくて良かったと心底ほっとした。


緩んだ口元を見られたのか、朝比奈さんの目が細められ目尻が下がる。


「妬いた?」

「妬いてませんもん」

「余裕だね。僕は伊崎からメッセージが入る度に妬いてるのに」

「……そろそろ、許してあげてくださいね。伊崎本気で怯えてるので……」


ちん、とトースターの音が聞こえ、気付いた彼がスマホをまた私に預けて振り向いた。
新しいお皿を二枚用意し、トーストを取り出しながら言う。


「真帆、冷めるから先に食べる?」

「そうします。コーヒー淹れますね」


話している間に、七時は回った。
早く食べてシャワーを浴びなければ、出勤に間に合わなくなる。


コーヒーメーカーの透明なサーバーは、既に中央辺りまで琥珀色に染まっている。
私は、色違いでお揃いのカップをふたつ、手に取った。

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