続*もう一度君にキスしたかった


「ぶっ!」


彼の顔を見る前に、いきなり抱き寄せられて顔面が彼の胸元にぶつかった。


メイクが。
口紅だとかファンデだとかが彼のスーツを汚してしまうと、慌てて顔を離そうとするのだけどがっしり後頭部を抑えられた。


「朝比奈さんっ?」

「んー?」


ぎゅうぎゅうと片腕で抱きしめられていれば、体温と香りが私を浸食していく。
浸ってしまいそう、だけれどここはオフィスだ。


「朝比奈さん、誰か来たら」


握ったままだった彼の袖口が離れていった。
その直後、真後ろの扉でかしゃんと音がする。


「誰も来ないよ」

「ちょっ、何して」

「今のは君が悪い」

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