続*もう一度君にキスしたかった
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朝比奈さんが、怪我をした。


電話をしてきたのは大阪支社で彼の部下である笹木さんという人で、明日で構わないからという説明を無視して私は直ぐ様新幹線に飛び乗った。


翌週から始まる参加予定のイベント会場に足を運んでいて、積まれた資材や立て掛けられたテントの支柱が風で煽られ崩れたという。


それを聞いてから、頭の中は真っ白になってしまって、居ても立ってもいられなかった。


保険証は、朝比奈さんが自分で持っているはずだし。
必要なものは、向こうで買えばいい。
準備を整えるより何より、時間が惜しかった。


入院した病院の名前をスマホで検索してみれば、新幹線の駅からまだ電車に乗らなければいけないようだった。


乗り継ぎが難しそうならタクシーを使おうか、どちらが早いだろうかとナビで何度もルートを検索しなおしているうち、熱くなった目元から涙が落ちて画面を濡らした。


頭を、打ったといってた。
出血量が多くて、これから検査もしなければいけないと言っていた。


笹木さんの話を思い出して、不安に押し潰されそうになるのを奥歯を噛み締めて耐えた。

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