【完】恋歌
だから、今。
目の前にいる男とは、戦わなければならない。
それで、命が散るのであれば、それこそが本望だ。
「私は、ダンピール…武瑠…お前を倒さずには終われない…」
発した言葉は、悲痛に染まった。
抱き締められた腕の強さに、心を奪われてしまった今…彼の息の根を止められるのは、本当に自分しかいない。
そう、思いたかった。
「…凜音……うん。分かった…いいよ。…おいで?」
彼は、穏やかにそう言うと、瞳を閉じて両手を広げる。
無防備に明け渡された心臓部に、聖剣を鞘から取り出し近づけようとする。
…けれど、何故かその瞬間に視界が不透明に滲んだ。
「…どうして、泣くの…?」
そう彼に指摘されるまで、自分が泣いていることに気付けなかった。
「…なぜ…」
自分は、彼を仕留めることが出来ないのだろうか。
ずっと、憎んでいたじゃないか。
それでずっと、探し求めて来たじゃないか…。