3→1feet

「なんか…甘い匂いがする。」



右側からぽそりと聞こえてきた呟きに私、鈴原ひまりの心拍数は一気に跳ね上がった。

19時過ぎ、残業する人影もまばらな今日は決戦にはもってこいの状況だ。

今日締めの仕事がほんの少しだけ残っていたこと、雪がちらついていたこと、上司が不在なこと、いろんな幸運が重なって私を応援してくれているようだと感じていた。

ましてやエレベーターホールに二人きり。


今しかない。


そう思ってカバンの中に潜ませていた紙袋を掴んだ時だった。

「なあ、何か甘い匂いがしないか?」

「えっ?」

まさかの甲斐くんの言葉に私は固まってしまった。

固まった表情のまま、冷や汗もたらたら、無駄に身体に力が入ってどうにも動けなくなる。

ダメだ、チャンスはピンチだ。

チョコレートってきっちり包装されてても匂いがしてたっけ。

いや、そんなこと無かったはず!

じゃあどうして、どこから、というか私の行動がもう完全にお見通しってことなの?

ほんの数分前まではこの状況に期待して喜んでいたというのに欠片もない。

まさか断るのが面倒くさくて言い出す前に切り捨てる手法なの?

ほんの1秒の間にマイナス思考が勢いよく私を支配していくのが分かった。

甲斐くん。甲斐一成くん。

ずっと片思いしてきてバレンタインに告白しようと決意したのは一週間前のことだった。

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