《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
「うわぁ。今度こそまさにお化け屋敷って感じだね…」

 ラインアーサは顔を顰めながらその廃屋敷を見据えるているが、ジュリアンはこれは名案だと指をパチンと鳴らした。

「よし! じゃあ次はあのおんぼろ屋敷の調査に決まりだな!!」

「えぇ…」

「次も誘えって言ったろ」

「言ったけど、だってあそこまで行くの? ここからだって結構距離ありそうだよ?」

「いいじゃん今度また抜け出した時に行ってみようぜ? 肝試しだ!」

「今日でじゅうぶん試された気がする…」

「俺は気になったら行ってみないと気が済まないんだって! こうなったらアーサにはとことん付き合ってもらうからな!!」

「まったく、ジュリってほんと好奇心旺盛だよね。まあジュリらしくていいけどさ」

「お。分かってんじゃん! アーサも色々な事に目を向けてこうぜ?」

「……うん。俺ももっと視野を広げないとな」

 半分呆れながらも〝らしい〟と言っては何だかんだ付き合ってくれるやさしい主。その優しさがラインアーサの強みであり弱みでもあるのだろう。
 優しさが君を苦しめない様に、弱みが強みであり続けられる様に。出来る事は何だってしてやろう、そう漠然と思いながらジュリアンは思い切り地面を蹴って駆け出した。

「どっちが先に王宮につくか競走だーー!!」

「あっずるい! 待てよジュリ」

「へへん! 俺が勝ったらまた今週も厩舎の掃除手伝ってもらうぜ!」

「そ、そんな…じゃあ俺が勝ったら……うーん、まぁいいや。とりあえず負けないからな!」

「へえ、追いついてみろよ!」

 ぎゃあぎゃあと文句を言い合いながら旧市街の街を駈ける二人だったが城下の街に着く頃にはすっかりへとへとになっていた。
 と言うのも、絶えず登り坂だったのだ。緩やかだが足場の悪い石階段や、古めかしい石畳のだんだら坂を漸く登りきった二人の呼吸は乱れに乱れている。

 それでも互いに負けじと持久力勝負を続行し王宮まで戻ってきたのだった。

「ジュリ…初め飛ばしすぎただろ…っ…今日は俺が勝つからな…」

「っく…させるかよ!」

 ふらふらと城門に手を付いたのはほぼ同時。ラインアーサはその場にへたり込み肩で大きく息をする。ジュリアンも手を膝につき乱れた呼吸を整えるもすっかり汗だくになっていた。

「俺の勝ちだな!」
「俺の勝ちだ…!」

「俺だって」
「いや……ぜったいに俺」

 決着やいかに。


 ─── こうして王宮の門の前で押し問答している所をリーナに目撃された後、否応なしにジュストベルの部屋へと連行。余儀なく長時間説教されたのであった。
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