《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
「だから怒ってないし! 機嫌も悪くない!」

「そうなのか?」

「……俺だってそれなりに色んな事を考えてるんだ。もし、ジュリにしたい事があるなら邪魔はしないよ。そんな事で怒らない。ただ…」

「ただ?」

「ただ、今までみたいに過ごせなくなる事が、少し……さみしいだけだ」

 うつむき加減でとても小さな声だが、ラインアーサの思いの乗った言葉はしっかりと耳に届いた。

「あっはは! 馬鹿はお前もだなアーサ」

「何でだよ!!」

「何も変わらないから」

「なにが?」

「俺は俺だし、アーサはアーサ。それはこれからもずっと変わらないし、俺はどこに居ようとお前とはずーっと今まで通りだ。な? 何も変わらないだろ」

「はあ? 何言ってるのかぜんぜん分からない。離れ離れになったら今まで通りなわけ…」

「とにかく! 俺は絶ーーっ対に変わらない、わかったか!?」

「あー、もう。分かったよ!! ジュリはジュリ、俺は俺。それで?」

「うん。それでさ、もうお前の耳に入ってるかもだけど」

「……」

「俺、警備隊の訓練所に入る事に決めた」

 やっと伝える事が出来た。
 ラインアーサの大きな青い瞳を真っ直ぐに見つめ、逸らさずに。

 先に視線を外したのはラインアーサだった。俯いた瞬間瞳の縁に溜まっていた透明な雫が零れ、何とか聞き取れた声は震えていた。

「…った…けど……」

「うん?」

「ジュリが……したい事あるなら、邪魔しないって言ったけど……でも…」

「うん。わかってる、俺だってアーサと同じだよ」

「……ジュリもおんなじ、なのか?」

「だから俺さ、訓練所入ったらたっくさん訓練を受けて警備隊に入隊してソッコーで隊長になって見せる! で、今よりももっと修行して色んな技覚えて、強くなる……王宮警備の試験も一発で合格する!! そしたら家族はもちろん、すぐ側でお前の事守ってやれるだろ?」

 息巻いたもののこの目標はかなりの難関だ。警備隊は人気の高い職であるがその門は狭く厳しい。誰でも簡単になれる訳では無い。
 ましてや王宮警備は警備隊の中でも一握りの優れた人材のみが職に就くことを許される。
 しかしそんな事は十分知っている。
 それでも、何年かかるか分からなくても、やり遂げると決めたのだ。これはきっと自分の為だけではなく互いの為になるのだと信じて。

 ジュリアンは俯いたままのラインアーサに切実に訴えた。
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