《完結》君と稽古した日々 ~アーサ王子の君影草~【番外編】
「……きっと……ジュリならすぐになれるよ」

「だろ? あっという間だぜ! だから…」

 だからそんなにさみしそうな顔をしないで欲しい。そう願いラインアーサの瞳をのぞき込んだ。

「……ん」

 願いが届いたのかラインアーサはふわり、柔らかく微笑んで頷いた。

「……泣いてやんの」

「な、泣いてない…!」

「じゃあそういう事にしといてやるよ!」

「む、本当に泣いてなんかないからな!」

「はいはい」

 何とか茶化したが自分の為にそうやって泣いてくれたのが嬉しく、油断すると自分も泣いてしまいそうだった。

「っ…俺だってジュリに負けない位頑張るよ! 色んな術もたくさん練習するし、剣術も体術もちゃんと身につけてこの国の王子として恥ずかしくない位になってみせるからな」

「おう! お互い頑張ろうぜ!」

 数年前のあの日、リーナの命と自分の心を救って貰ったあの時に真の忠誠を誓った大切な主。
 ここ最近の成長は敢えて口に出さず互いの意気を高める。

「……正直、俺。ジュリに置いていかれるんじゃないかって不安だったんだ」

「へ? 俺が、お前を……置いて?」

「うん。だって俺、昔から何をやっても敵わないし、歳は一つしか違わないのに何でも器用にこなすだろ? そんな所も含めて純粋に凄いなって思ってて、でも最近どんどん先に行っちゃうから焦ってたんだ。ジュリは俺の目標でもあるから」

「っな…」

「ジュリは教え方が上手いから、短期間でも剣術を教われて良かった…! 俺これからもジュリの事を目標に…」

「わ、わかった! わかったからちょ、ストップ!! っ…何だよ、そんな褒めても何もないからな!?」

 ラインアーサがあまりにも純粋な眼差しで褒めてくるので恥ずかしくなってきて思わず言葉を遮る。

「え、なんで? 事実を言っただけだよ?」

「嬉しいけど、俺なんか目標にするなよ。俺よりすごい奴なんて世の中数え切れない位いるってのに」

「それでも! それでも俺はジュリの事を凄いって思ってるんだ。俺の自慢の幼なじみだよジュリは」

「っ…」

 屈託のない笑顔を向けられ、たじろいでいるとラインアーサは更に続けた。

「ジュリがいてくれて良かった。俺、守られるだけじゃあなくてこの国の民を、みんなを守れる様な……父様みたいな存在になれる様に努力するよ」

 微力ながら、この主の目標を全力で支えて行けたらいい。そう思った。
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