悪魔なアイツと、オレな私



「俺……水野が好きなんだ……」




治人の顔が真剣で、そして、どこか哀しそうに細められる。
千秋の中で何度も治人の言葉が反芻したが、悟られないように笑っていた。




「そ、そっか。治人って、亜里沙が好きだったんだ。気づかなかったなあ……ははっ。い、言ってくれたら、協力……協力、した、のに」



嘘だ。
心にもない言葉が自分の本心とは関係なく、口が勝手に動いていた。
さっきまで二人で居たことが嬉しくて仕方なかったのに、今は早くこの場を去りたくて仕方ない。





「意外だなあ」



「え……?」



「俺、千秋も水野が好きなんだと思ってた」




違う、違う、違う。
心の中は何度も否定するのに、治人が好きだと言いたいのに、もう告げることすら出来なくなってしまっていた。






「……好きだって言ったら?」



「え……」



治人の言葉も動きも一瞬止まった。
次がれる言葉はすごく嫌なことを言う。
千秋も、治人も、もしかしたら亜里沙すら傷つける言葉かもしれない。
それでも、今の千秋には止められなかった。





「俺がもし、亜里沙を好きって言ったら治人はどうする気?」





「それは……」



治人が言い淀む。
そうだ、治人がこういう困った顔するのはわかってた。
自分の性格の悪さを自覚しながら、千秋は続ける。





「協力なんて……嘘だよ。ごめん、治人。俺は……出来ない。俺も……亜里沙が好きだから」





今は、こう返すことしか出来なかった。
呆然と立ち尽くす治人を放置して、千秋はその場を去る。





渡り廊下から校舎へと戻って来たところで、千秋を追ってきていたであろうレオと鉢合わせたが、今は何を語るつもりもない。
レオの事も無視して教室へと戻っていく。






その背中を眺めながら、レオは小さく口角を上げた。






「中々……面白くなってきたな……」
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