悪魔なアイツと、オレな私
亜里沙


教室に戻って授業を受けながらも、先生の話なんて頭に入ってこなかった。



コツン、と机に転がった消ゴムの欠片に、投げられた方を振り向くと、レオと目が合う。
面白がるような笑みを浮かべているのが腹立たしくて、シカトしてみる。
コツン。
また先程より大きな消ゴムの欠片が飛んできた。



……。
関係ない、シカトしてやる。



ゴン。
消ゴムが飛んでくると思ったら、すっ飛ばして筆箱が飛んできた。
後頭部に鈍い痛みが広がり、レオを涙目で睨み付けると、肩を震わせて悪戯を成功させた子供のように笑いを堪えている。



後で覚えてろよ……。




チャイムが鳴ると、一直線にレオの元へと歩み出していた。




「どう言うつもりだよ!?」



「一ノ瀬だったか?話があったんだ。少し付き合ってくれるか?」



白々しく名字呼びで人当たりの良さそうな微笑みを浮かべた詐欺師は、千秋の返事を待つことなく廊下へと出ていく。



嫌な予感しかしないが、このまま放置しても後々面倒なことになりそうでため息を溢しながらも仕方なくレオに付き合うことにする。




人通りの少ない校舎裏まで連れてこられると、腕組み仁王立ちの偉そうな態度に戻った悪魔が鼻をならして笑っている。



「どうだ?あの爽やかスポーツマン馬鹿とは進展があったのか?」



「治人の事、そんな風に言うのやめて!」


「二度も屈辱を味わわされた男の肩をまだ持つんだな。人間とは面白いもんだ」



「やっぱりさっきの見てたんだ……最低」



「それが俺の仕事だ。それか、お前の宣言通り……あの男を見返す為だけに、今朝の女を口説いて落とすか?」




「あ、亜里沙は……友達なのに、そんな事……」



「友達?だったら、あの男に宣戦布告したのは何故だ?お前は、ただあの男に……今朝の女に、見捨てられたくないだけだろう?仲良し三人の中で取り残されるのが怖いだけだ」



「分かったような事言わないで!」



レオに反抗したが、内心は動揺していた。
見透かされているような男の口振りを、とにかく否定したかった。
違う、そんな理由なんかじゃない、と。



「孤独が嫌なら、俺の所に堕ちれば良い。元の姿に戻してやる……、主のお前には最大級の加護をくれてやろう」



「また、死ぬとか何だとか言う奴でしょ。絶対嫌。そもそも、あんたの所に堕ちるなんて、絶対有り得ないから!」



悪魔の誘惑にろくな結末はない。
そもそも、変態の口車なんかに誰が乗ってやるか。
治人への気持ちも嘘ではないし、亜里沙を利用するつもりもない。
自分の胸に手を当てて、千秋は自分の弱さを打ち払った。
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