社長は今日も私にだけ意地悪。
「勿論、新人を売り込んでいく為にはそのくらいの積極性が必要だよ。だけど、それには金も時間も掛かる」


アーティストがライブを行うには、当然費用が必要となる。

会場を使用する為の会場費、ステージ及び機材をセットする為の費用、人件費や機材の運搬費も掛かるし、場合によっては移動費や宿泊費も必要となる。

それなりに実績のあるアーティストだって、チケット代の売り上げ代だけでは赤字になることがあるとのこと。
それなのに、無名の彼等が同じことをしたって黒字になんてなる訳がない。
当然、赤字になることか分かり切っているライブ活動なんて、許可はおりない。


淡々と、だけど私を納得させるかのように丁寧に話してくれる佐藤さんに、私は何度も相槌を打っていた。


「だからさ、この前も言ったろ。ライブステージは用意出来ないから、どこかのライブハウスと出演契約を交わせって。そうすりゃあ、会場準備とかはライブハウス側がやってくれるから、会場費も機材のセット費用も人件費も運搬費も掛からない。
まあ、ライブハウスは固定のギャラは出ないから、チケット売り上げのノルマを達成しなければ結局は赤字だけどな」

「報酬がもらえるのは、売り上げのノルマを達成してからでしたっけ」

「そう。ノルマが五十枚っていう契約を結んだのなら、報酬がもらえるのは五十一枚目のチケットから。
でも、無謀なステージで確実に赤字になるよりはマシだろ。ライブハウスならそれなりに客も集めやすそうだし」

「実は、先日佐藤さんからそのご提案をいただいた後、早速彼等にその様に連絡を取ってみたんです。
だけど、断られてしまいまして」

「断られた? 何で」

「ライブハウスへの出演は、やろうと思えば自分たちだけでもいつでも出来るからと。現に、馴染みのライブハウスでは出演側としても常連だったらしいですし」

「とことん試されてんのな。いや、単純に馬鹿にされてるだけか」
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