彼と愛のレベル上げ


「だから、そうじゃなくて。今は主任の電話の内容の話ですってば」


主任は、次の週末にこちらに来れそうだから、それを早く知らせようとしてくれていただけだった。

確かにメールで『帰るから』と知らされるよりも直接この耳で聞きたい。

だけど、あんな時間に、しかも仕事中に電話してくるから余計な誤解が生じてしまうんだ。


「あぁ、別にその話はどうでもいいけど」

「え?」

「ねぇ、桃ちゃん?今は相良さんの事悩んでたのよねぇ?」

「え、…あ、はい、そうデシタ」


だって、主任に会えるのは嬉しくて。あと三日もすれば主任に会える。
毎週末会えて、たまに平日にも会える望亜奈さんとは喜びが違う。


「まぁね?主任に会えるから嬉しいのはわかるけどさ。どうするの?相良さんの事」


どうするのと言われても、潤兄から言われたのは「俺なら泣かせない」と言う言葉だけで。
どうするのもこうするのも、ない。

その言葉だけでは答えが欲しいのかどうかわからない。というか答えって何?

あの時は驚いたけどでも良く考えたら、


「潤兄がもしも主任の立場だったらって意味でしょう?だから…」

「はぁああ?桃ちゃんまだそんな事言ってんの?しまいには怒るわよ?」


怒るって、そのきれいな顔がすでに怒ってますけど。
食べ終わったケーキの皿を横に、紅茶を飲む望亜奈さん。
その綺麗なしぐさとは対照的なこの言葉。


「俺ならって言われても、私は主任しか無理ですもん」

「なんだ。ちゃんと答えられるじゃない」


桃ちゃんも大人になったわねーなんて嫌味を付け加えた後で、


「答えを聞かれたら、きちんとそれを目を見て言わなきゃダメよ?それが相良さんに対する礼儀だからね?」


答えなんて聞かれる事があるんだろうか?潤兄に。

きっと潤兄は私が困ることなんてしない。私はそんな風に考えていた。


「どうでもいいから、さっさとその首に掛けられたリング。左手にはめてもらいなさいよ?」

「ぇ、」

「そんな見えないところにしてるから相良さんがあきらめきれないんじゃない」

「…でもっ」


今はまだここでね?って主任に言われたから。
私には左手にしてもらえる資格がまだないってことだから
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