彼と愛のレベル上げ
望亜奈さんの彼氏さんの話はよく聞かされていた。

一緒に居ると温かくて、激しい気持ちはないけど心にじんわりとしみてくるものがあると。

彼のプロポーズの言葉も、今の彼の様子も。そして望亜奈さんがどんどんと変わっていった事の意味も今強くわかった気がする。

一度目の結婚は気付いたら式の日取りが決まってたと言った望亜奈さんが次に人生を共に過ごそうと選んだ相手は濱野さん。

最初は意外だと思った。

濱野さんって人の良さそうな感じだけど、イケメンって感じではない。

だけど、彼を落とすと息巻いてた望亜奈さん。

あとから聞けば濱野さんの方こそ、最初に一目ぼれだったと。だけど派手なタイプの望亜奈さんに自分は似合わないからと言ったそうだ。

でも今並んでいる二人を見ればすごくお似合いで……


「天ケ瀬さん。今だから言えますが…。自分の気持ちを相手に伝える事は難しい。だからと言ってそれを怠ったりあきらめたりしてはいけない。誠心誠意相手に伝える事は一番大切な事ですよ」


その言葉は私だけでなく、潤兄の心にも響いたようだ。


「濱野、たまにはいい事言うじゃん」


プロポーズの言葉とか

隣に居てお似合いかとか

そんな事よりももっと大切な事。


私は私の言葉でジュンさんに伝えた?

与えられるばかりは嫌と思った。

けれど自分の気持ちをきちんと言葉で伝えた事はあった?


「濱野さんっ」

「はいっ?!」

「あの、頑張ります!」

「え?」


クスクスと笑う望亜奈さんと潤兄。

なんか間違った事した?私?


「あー海斗?桃ちゃんね?お礼言ってるみたいよ?」

「え?あ、そう…なんだ?」


望亜奈さんの言葉に半信半疑な濱野さんに続いて私は言う。


「濱野さんの言葉にずっとモヤモヤしてたものがスッと消えました!ありがとうございます!」

「そ、それは良かった」


やっと微笑んでくれた。


「んじゃ、そんなわけでもう一回乾杯しとく?」

「「「「かんぱ~い」」」」


そのシャンパンがなくなって次のワインがなくなるまでその乾杯は続けられた。
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