彼と愛のレベル上げ
下を向いてそのあとの言葉をなんて続けようかと考えていたら、車がすぅっと止まった。

窓の外を見ると道路の途中にある見晴らしのいいビューポイント。

走り出してからまだ10分ほどしかたっていなくて休憩するには早過ぎる。


「外は暑いから、ここで」

「はい……」


今は7月で東北とはいえ午後のこの時間は少しずつ日差しが強くなってきている。

正面には海が広がっていてキラキラを眩しいぐらいに水面が光っていた。

主任はシートベルトをはずすとこちらを向いてから私の右手を取った。


「モモを責めてるつもりはありませんよ?…ただ、モモが主任て呼ぶたびに主任でいたころの自分が呼び戻されて手出しできなくなるのがいやなだけで。…ただの俺のワガママかな……」


いつも自信に満ちている主任が、なんだかちょっとだけ寂しそうに見えた。

だからちゃんと私の誠意とか見せておかないと……


「あのっ、努力、しますっ」


そう言ったらふっと口角が上がって目尻がちょっと下がったような気がした。

今日はメガネをかけてるから表情の変化がそんなにしっかりは見えないけど。


「ワガママついでに、その敬語も少しづつ変えてくれると嬉しいんですけど?」


へ?なんで?

主任の方が思いっきり丁寧語だし。


「え?でも、それはっ。しゅ、ジュンさんだって丁寧語っていうか」

「あぁ、これはわざとですけどね?」


へ?なにそれっ。

しかもなんかニヤってしたような?


「こんな風に言われるとモモはこちらの言う事、聞きたくなるでしょう?」

「え?」


……なにその理由。

そしてなにその余裕。

さっき一瞬でも寂しそうに見えた主任に申し訳なかったなんて思った自分を返してっ。


「ただそうやってモモの困るところが見たいだけですから」

「そんなのっ、なんていうか。しゅ、ジュ、ジュンさん。性格悪いっ」

「ジュンさんて呼ぶ努力は認めますけど、まだまだわかってませんね?モモは」


何が?

いつだってこんなに余裕で意地悪なこと言って。

子供な私を再認識させられてばかりで、主任のことわかろうだなんて思ってもかわされてばかりなのに。
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