ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



部屋に入ると大きな一枚木の卓があり、席は5席用意されていた。
一番奥の上座に一席、そして向かい合うように2席ずつだ。


その奥の上座にどっかりと恰幅のいい老人が腰を下ろしていた。


老人と言っても、眼光は鋭く近寄りがたい感がある。
ガッシリとした体格と堂々たる風格を持ち合わせた土佐犬だ。


彼、いや、この闘犬が今夜の主役らしい。


彼の脇には冷徹な雰囲気が漂う黒づくめの男が微動だにせず正座している。
鋭く光り、冷徹とも獰猛とも取れる眼は、番犬にうってつけなドーベルマンってところだ。


襖が閉まったと同時にシェパードが挨拶する。  



「遅くなりまして、申し訳ありません」  



「わしが早く来ただけだ。
謝ることはない。
さあ、足を崩して席に着いてくれ」  



「ありがとうございます」  


そういうとシェパードは遠慮なくあぐらをかいて席に座りこんだ。
その態度は無作法にも見えたが、この状況では逆に頼もしくすら思えた。  



「なんだ、
連れてくるというのは女だったのか?」  


沙希に目をくれることもなく、シェパードに問う土佐犬。
見た目に違わず、言葉も口調も威圧的だ。
男尊女卑がまかり通った時代の生きた化石だろう。  



「はい。
これから御社の担当を任せようかと
思っております」  



「この女をか?」  



「はい」  



「ひょっとして、お前のこれか?」  


片方の口端を上げて、小指を立てる土佐犬。
下品で無粋な態度に嫌悪感が込み上げた。  



「だとしたら、 鷲尾会長には会わせませんよ」  


そう返すシェパードの眼差しが鋭く光る。
意味深な切り返しに、思わずシェパードの表情を窺った。


土佐犬はシェパードの眼光などものともせず、不敵な笑みを浮かべながら、お猪口を煽るように傾けた。



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