ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



バーを出て、駅までもう少しという所で、沈黙していたシェパードが不意に沙希に話しかけた。  


「今日はとても楽しかったよ。
鷲尾の爺さんの件もうまくいったし、
BACKSTAGEでいい酒も飲めた」  


「ありがとうございます。
こちらこそ楽しく飲めました」  


シェパードは嬉しそうに微笑むと、意を決して打ち明けるように言った。  


「あ、また…いや
あの…
またあの店に付き合ってくれって
誘ったりしてもいいのかな?」  


「え?」

ぎこちない誘いに沙希も戸惑ったが、すぐさま快諾する。

「私でよかったら、いつでもいいですよ」  


「本当に?
あ、でも、君の帰りが遅いのを
彼は怒ったりしないか?」  

あどけない少年のような笑顔を見せた途端、不安気に訊くシェパード。
何か違和感を感じながら沙希は答えた。  


「会社の飲み会とか今までもあったし、
仕事だと言えば、問題ないですよ」  


「そうか!」

シェパードはまた嬉々とした笑顔を見せ、目を輝かせた。

「じゃあ、飲みたくなったら、
村上君を誘わせてもらうよ」  


シェパードの笑顔を見ながら、この違和感は何なのかと沙希は首を傾げた。
女には慣れてるはずのシェパードが見せる屈託のない笑顔…


ひょっとして、勝手にこちらがモテる男像を作り上げてただけで、意外に女には奥手なのかもしれない。
や、でも子猫情報では女関係は盛んだと言っていた。

だとしたら、この笑顔で無邪気に女心をくすぐっているのだろうか。
デキる男のあどけない笑顔というギャップ。


飼育系女子の食指が刺激されたが、今はそんなことは言ってられない。


「それじゃ、また明日」と言い残し、颯爽と立ち去るシェパード。
キリっとしたその歩く様は、人波に混ざっても一際目立っていた。


その姿を見る限り、女に奥手というのは可能性は低いかなと思いつつ、沙希は踵を返した。




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