ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



「何をボサッとしてる。 早くこっちに来ないか。」  


ハッと我に返り、そそくさと土佐犬の対面に座る。  


「あ、あの… すみません。
てっきり鮫島さんかと思いまして…
忘れ物を取りに来てくださいと
…言われたものですから…」  

この場に来た理由を告げようとした沙希だったが、土佐犬の表情に言葉を詰まらせた。
言わずとも土佐犬の目が物語っていた。
そんなものは口実だ、と。  


「村上君…だったかな?
この前は見事な飲みっぷりだったじゃないか。
さあ、まずは一杯」  


御猪口を差し出す土佐犬は、すでに出来上がっているようだ。
御酌を受け、一気に飲み干した。
続けざまに土佐犬が勧める。  


「美味いだろう?
『14代』という山形の酒だ。
なかなか手に入らん代物だぞ」  

土佐犬は酒を注ぎながら、満足気に酒の紹介をした。
酒好きとはいえ、日本酒の銘柄までは詳しくない沙希だったが、

『14代』は幻の銘酒だと聞いたことがある。
たしかに喉越しもよく、美味い。
が、今は酒の味を堪能している場合じゃない。  


「鷲尾会長」
返杯をしながら、余談はもういいと沙希が訊いた。
「それで忘れ物というのは何でしょうか?」  


「それなら、鮫島が後で渡す。
まぁ、そんなことは後でいいじゃないか」  

面倒くさそうに答える土佐犬に沙希がキッパリと言い返す。  


「私は鮫島さんから忘れ物があると聞いて
それを取りに来ただけですが」  

沙希の素っ気ない態度に苛立つように一気に御猪口を空にした。  


「そう意気りたつな。
まぁ、気の強い女は嫌いじゃないがな」  

不敵に笑う土佐犬。
元々の嫌悪感に輪がかかった。


強気な女が好きなんじゃなくて、強気な女をねじ伏せるのが好きなんだろう。  



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