ワンだふる・ワールド ~飼育系女子の憂鬱な1週間



「ところで、今回の件、 大和は何て言ってる?」  


どう答えるべきか迷ったが、


「ご希望に添えるように検討しております」

とうまく濁して答えた。  

「ほぉ、そうか。
なら、良い返事が聞けそうだな」  


満足気な土佐犬の目尻が下がる。
が、次の言葉で目尻が下がった本当の理由がわかった。  

「ところで、 村上さん、
お前さんの返答次第では

今回の件、
お宅の独占にしてやってもいいんだが…
どうする?」  


「当社の独占?…ですか?」  


「そうだ。
この商品はお宅の専属でもいい。
が、条件がある」  


凄みを利かせた土佐犬の睨みに、背筋がピンと伸びる。
怯える沙希に土佐犬は土足で踏み込むように話を続けた。  


「うちの商品を専属にする代わりに
わしの秘書にならんか?」  


「はぁ?」
突拍子もない提案に沙希の眉間に皺ができた。
「秘書ですか?」  


ビックリするのと同時に、沙希は拳をギュッと握りしめ固まった。  


「まさか」
土佐犬が卑しくニヤッと笑いながら云う。
「わしと寝ろとでも言うと思ったのか?」  


土佐犬の凄みよりも嫌気が勝って、辟易しながら沙希は口を開いた。  


「そんなこと思ってません。
でも、秘書になれだなんて…」  


想定内の返答だったのか、土佐犬は沙希の表情など気にも留めず  


「まぁ、秘書じゃ物足りんか。
わしの女になるというのなら、
それはそれで考えてもいいんだがな」  


舐めまわすように沙希を見る土佐犬が高らかに笑う。
どこまでも無神経な男だ。

こっちにだって、闘犬にも屈しないくらいの意地はある。 頑として受け付けない視線で睨み返すと、  


「まぁ、そう怒るな。 これなら、弾むぞ」  

土佐犬は火に油を注ぐつもりか、親指と人差し指をくっ付けて輪っかを作った。
その行為に虫唾が走る。

私が金で動く女だと思われていることが、沙希の神経を逆撫でした。  


「そういう問題ではありません」  


何とか理性を保って沙希が言葉を吐き出すと、訝る沙希に徳利を向けながら土佐犬がいう  


「じゃ、何が望みだ?」  


とりあえずお酌だけ受けて、沙希は土佐犬の質問に思ったままの疑問をぶつけてみた。  


「何で私なんですか?」  

沙希の質問に土佐犬は手酌で酒を注ぎながら  


「ん?
まぁ、大した意味はない…
といえば、失礼に当たるか。
まぁ、一言でいえば
わしが気に入ったからだ」  


「大和は承知の上ですか?」  


「あいつはこの事は知らん」  


そりゃ、そうだろう。
これでシェパードが容認してたら、汚職警察犬として逮捕してやるところだ。


とりあえず、私はビジネスの道具にされたわけではないらしい。


 
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