エリート社長の許嫁 ~甘くとろける愛の日々~
プロローグ
「『峰岸織物(みねぎしおりもの)』の峰岸と申します。弊社商品のことで、担当の稲田(いなだ)さまとお話をさせていただけませんでしょうか?」


今日はこれで五社目。
ハイヒールの中の足は靴擦れを起こしていて、うっすらと血がにじんでいる。
だけど、こんなことでへこたれているわけにはいかない。


私、峰岸砂羽(さわ)は、創業百三年の、大正時代から続く老舗繊維メーカー、峰岸織物のひとり娘。
一年ほど前に父が他界してから、社長に就任した母を手伝い、慣れない営業に出るようになったものの、もともと口下手なので簡単ではない。


「アポイントはおとりでしょうか?」


服飾メーカー大手の『ブランピュール』の玄関で、にこやかな笑みを浮かべる受付嬢が、柔らかい口調で尋ねてくる。


「商品開発の稲田さまには一度、お電話を入れさせていただいております」


ただ、電話は入れてあるが、面会は断られている。
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