エリート社長の許嫁 ~甘くとろける愛の日々~
化粧をしっかりと施し、背筋をシャキッと伸ばしてはつらつとしている母の姿が好きだったのに、最近では肩につくくらいの長さの髪を無造作にひとつにまとめ、化粧もほどほど。

百六十二センチの私より七、八センチは背の低い母は、父が亡くなってからなんだか一層小さく見えてしまう。

それもこれも、会社を存続させなければという重圧のせいだと思う。


「奥さん。いい娘を持ったねぇ。他の会社のヤツらから、峰岸織物は看板娘がいていいねなんて嫉妬されてるんだよ」


橋さんはすこぶる優しい。

だけど、単なる“看板”ではいけない。

ずっと事務しかしてこなかった母も社長業なんてまともにできるはずもない。
新しいことを覚えるのも大変そうだ。

それなら、私が頑張らなくては。


「橋さん、ありがとう。照れちゃう」


ここで私が沈んでいるわけにはいかない。
皆の士気まで下がってしまう。


「そうそう。砂羽ちゃんが言っていたサンプル、また用意したから使って」
「わー、助かる。大切に使わせてもらうね」
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